明治10年3月届

画工未詳「(鹿児島県)有のそのまゝ」拾号

1877-03-05 「有のそのまゝ」10号
生住昌大 蔵

画題:(鹿児嶋県)ありのそのまゝ 拾号
判型:大判錦絵
画工:未詳
版元:大阪・金井徳兵衛
届日:明治10年3月5日/同4月出版

詞書

続いて、西南の大戦争は、日々其鎮静を祈るといへども、いまだ防戦の煙横ぎり、兇雲裂けやらず。一人西郷隆盛、血路を開かんと欲すれども、志遂る能はず。去程に、方今賊勢の一方ひらき、春色稍うつろひ、満開の花にひとしく美々堂々と、五百有余人、声を揃へて操込む一隊あり。其粧装は、白木綿の鉢巻後に垂れ、緋の玉襷まばゆく、丈け髪を振乱し、甲斐甲斐しく長刀を横たへたるは、正しく一群の女隊なるが、何れの嚊やら、箱入りやら、お三どんやら、等級いづれもさだかならず。畢竟同権の流言があればとて、浮雲い開戦をやられ升す。官軍方の勝利にをいては、度を算ふるに指を忘る賊方には、軍略心胆を砕くが中に、西郷は忽然と彼方に出、此方に指揮し、前にあり、後に現れ、四、五名影武者ありといふは、信を得がたき風説ならんが、賊隊个程策を労ずといふも、有名の賊将、次第に戦没し、やゝ進撃も衰へたるか。荘厳たる霜柱、旦の陽に滅すにひとしく、楚勢の強勇なるも、晩秋の落葉につれ、古郷の空に想を焦す敗卒の深情もかくやらんと、遠く量るのみ。跡はをいをい、次号に確報す。

所蔵者/掲載図書

生住昌大
海の見える杜美術館